■3/3 また苦しいことを音楽が助けてくれている。が……
執筆継続中。
それでも合間に、娘を通わせてあげたい塾の費用や、定期代についての悩みが押し寄せてきて、心が乱れる。
大手の予備校は、「現役生何名合格!」という宣伝をしたいらしく、浪人ともなると分割払いもさせてくれないし、コースのみで単科で1科目ずつとれなくなってしまう。
だから小さな予備校を見つけていたのだが、ようやく見つかったと思っていたら、そこへ通うのに定期代のことを忘れていた。
忘れていたというのは不正確で、代ゼミや河合塾のような「指定校」以外の小さな予備校は通学定期が発行されず、通勤定期しかダメなのだそう。
とんでも無い額。
娘に電話して、正直に話した。
「せっかくいいところを見つけて、現役生も予備校生も一切区別しませんと塾長からメールももらったんだけど……しかも毎月の月謝制だから、大手みたいに1年分80万円とか払わなくてもいいし、喜んだんだけど、通勤定期だと、3カ月で11万円もかかってしまう。塾の講習料の倍もするんだ。
今日徹夜してなんとか仕事をフィニッシュできれば、今月末に印税を一部払ってくれることになったんだけど、これじゃお父さんは病院も行けない、食費にも事欠いてしまう。
それでもなんとか春期講習と6月までの3カ月分はなんとかする。でも、夏期講習や9月からはとても払えなくなってしまうかも知れない。
お父さんがまた次の本を書いてお金をもらえれば、だいじょうぶなんだけど、次の本って、まだ出版社に営業に行って話が決まったワケじゃないから、あやふやなんだよ。
でも、3カ月みっちりやってもらえば、その分基礎力はつくだろうし、勉強のやり方そのものも教えてもらえると思う。なにしろ、ひとりひとりの塾生の弱点まで塾長が把握してくれるそうだから」
と誤魔化して。
そうしたら、
「だいじょうぶ。その3カ月、一生懸命やればあとはひとりでできるよ」
切なかった。ふがいなかった。
小説家になるということは、それで売れなければ、筆が速くて毎月1冊どころか1.5冊でも書ければそれなりの年収になるだろうが、僕のような遅筆の小説家を父親に持てば、それは苦しいことばかり。
たぶんそういう罪で、僕は地獄に落ちるんだろうな。
いま大好きなJack・Johnsonをヘッドフォンで大音量で聞いている。
ここ湘南の地で、サーファーたちが発見したハワイのミュージシャンで、彼自身もサーファーだ。
時おり背景に波の音が流れて、なんだか心が落ち着く。
これを聞きながらだと、邪魔になるどころか、逆に感情がフラットになって、なにも考えていないのに筆が進む。
逆に逃げ出したくなる、耳をふさいでしまう音楽も、実はある。
ノラ・ジョーンズがかかると、僕はそのとたんにショップなら外に出るし、カフェなら耳をふさいで絶対に聞かない。
不思議なことに息も荒くなる。
なぜなら彼女の音楽というか歌声は、僕が子どもたちと強制的に別れさせられ、誰もいなくなった昼なおくらい実家で独り住まいをし、だからといって借金は追いかけてくるし、子どもたちのために住宅ローンだけは払い続けなければならない。
寂しくて、苦しい時に、友人から借りたノラ・ジューンズのCDをパソコンで聴きながら仕事をしていた。
だから彼女の音楽や歌声を聞くと、その当時の辛かった思い出が、一瞬にして、一気に思い出され、わっと襲いかかってくるのだ。
だからいつかJackの音楽も聴けなくなる時が来るのかも知れないな。