「子どものころ、私は尋常でなく小説を読むのがすきな子どもだった。また成長するとかなり重症の文学青年になった。しかしそういう子どもや青年が、かならず小説家になるとは限らないだろう。むしろ小説家にならない人の方が圧倒的に多いはずである。
そしてまた小説は、やむにやまれぬものがあって書くものだろうと思うけれども、やむにやまれぬものを抱える人が、すべて小説家になるわけでもない。そういったことを考えると、わたしが小説家になった経緯には、私も見落としているようなさまざまな因子が働きかけているようにも思われる。」