✨どしゃ降りだっていいじゃないか。最後に晴れれば✨

小説家・小宅高洋(新ペンネーム)のひとりライフ。

辞世……人は死を目前にして何を思うか。

この年齢になったせいだろう、辞世の句を読むと、

「嗚呼……」

と琴線に触れることが多くなった。

僕の好きな句のひとつはこれ。

 

春秋の花も紅葉もとどまらず 人も空しき闇路なりけり

                 (島津義弘 享年85歳)

 

言わずと知れた安土桃山時代~江戸時代初期の武将である。

その勇猛ぶりから“鬼島津”の名で親しまれ、また恐れられた。

伊東氏、肝付氏ら近郊の豪族たちと激闘を交わし、やがて支配地域を広げて大友氏とも戦い、やがては九州平定のために襲来した豊臣秀吉とも戦い、兄義久が秀吉の軍門に降ったあとも、文禄の役慶長の役で二度も朝鮮に出兵、関ヶ原の敗戦に際して敵中突破して帰郷した逸話はあまりにも有名である。

その彼が、人生について、なんと空しい闇路であったろうかと述懐しているのである。

人々を魅了してやまない桜の花も、深山幽谷を赤く染め抜く紅葉も、結局はこの世に残らないが、我もまた然りと、もはや勇猛さは姿を消して平らかとなり、澄み切った境地に落ち着いた義久(剃髪して維新斎と号す)の心が、なんとはなしにわかってきた。

 

「あの野郎、絶対に赦さない!」

などという感情のひとつやふたつは誰しも持ったことがあるに違いない。

(僕の場合は元妻と息子、娘なのだ……不幸ここに極まれりなのだが)

しかし自分の死を悟ったとき、そうした激情が遠くへ消えて、涅槃の境地へと至るのだろう。

 義弘には辞世の句がもう一句あって、

 

天地(あめつち)の 開けぬ先の 我なれば 生くるにもなし 死するにもなし 

 

辞世千人一首

辞世千人一首

  • 作者:荻生 待也
  • 発売日: 2005/06/01
  • メディア: 単行本