僕なりの文章修行術⑫ 名文家・丸谷才一
名文というものは、美辞麗句で固めた時代や、それを解説した谷崎潤一郎先生もがすでに美麗調となり……時代が変遷するにつれて名文というものも移り変わっていくものだが、小説というものも世の中の移り変わりによって変わっていくものであるから、それは当然のことだろう。
個人的には泉鏡花が大好きなのであるが、この方の文章からして、すでに古文あるいは擬古文愛読者の観賞用として存在するに過ぎなくなってしまった。
しかし中学生のころからなんど読んだかわからない『高野聖』などは、美文調に酔いながらも背筋がぞっとする恐怖にとりつかれて、なまじ現代の恐怖小説などよりはるかに強烈である。
まるで自分自身が霧の流れる深山幽谷に紛れ込んでしまったようで、首筋に山蛭がぽとりと落ちてきたような錯覚を覚えて、おもわず首に手をやって山に棲む邪淫を払い落とそうとするほどだ。
もし原文と現代語訳の両方を味わいたければ、上記の『雨月物語』を、安く済ませようとするならKindleをお持ちの方なら0円で(Audible 会員も)読める下記のものを選べば間違いはない。
僕は読んだことがないが、角川版は現代訳にやや難ありというレビューが載っている。やはり高田衛先生・稲田篤信先生校注によるものが安心だろう。
いずれにせよ紙媒体は、Amazonのペーバーパックス700円が最安値で、ちくま学芸文庫になると1540円もしてしまうが(高くなったなあ……というより文庫でこんな長期間値段を維持しているのは驚く)、買っておいて損はないと思う。
少々趣味に走って、丸谷先生の名文から話がずれてしまった。
『文章読本』でいえば、まずは三島由紀夫先生を筆頭とし(すでに紹介済み)、
僕は丸谷才一先生の本を名文としてあげておきたい。
名文であり、名著である。
その他谷崎潤一郎氏、川端康成氏も文章読本を書かれておられるが、これもあくまで
「なるほど~」
と感銘を受けてうなる本であり、自分の文章の血肉にはならない、上級すぎると思う。
名選手、かならずしも名監督にあらずというわけである。