独身男性諸君がこの世でいちばん不幸にならないために。 「結婚してはいけない」⑤
政治の世界に顕著であるが、振れた振り子は、反動によって、基点にとどまることなく、はるか反対側に振り切れてしまうことが多い。
基点というのは、孔子に言わせれば「中庸の徳」とでも言うべきものだと僕は考えていて、それは右翼と左翼のちょうど真ん中、という単純な図式では片付けられない。
より右派的な思想ではあるがある面非常に民主的な要素を内蔵していたり、左派的ではあるが、実はスターリンや毛沢東と同様、ただのナチスドイツの裏返しに過ぎなかったりする。
そうしたさまざまな思想が相互に混じり合って存在しているから、世の中それほど単純ではない。
アメリカにおいて、共和党が政権を握っている時よりも、民主党の方が徹底的な戦争を遂行するなんていうのは有名な話で有るが、これは女性と男性との力関係にも言えることである。
擡頭し始めた女性の権利獲得、男女差別反対の主張は当然のことであり、とりわけ男女格差の強い日本においては、その反動によって、極端に行き過ぎてしまった。
「ウーマン・リブ」
という奴である。
これを男女同権を叫んでいる女性の尖鋭分子たちは、一種男の暴力を逆手にとって、
「殴るなら殴りなさいよ」
と叫ぶから、「人を殴ってはいけない」という世の中の常識に逆らうわけにも行かず、口では女に勝てない男はたじたじとなってしまう。
少し前から中間管理職によるセクハラが問題となり、これがウーマン・リブ、女性解放運動家によってやり玉に挙げられるようになったころから、それまで圧倒的に男性優位の立場にいた男たちが、総崩れとなってしまい、この力関係は、婚姻関係ある男女にも及ぼされるようになってきた。
僕が若い頃は近所で朝ゴミ捨てをしている男性なんて見たこともなかったし、1日に飲むビールの量を限定されたり、お小遣いは1日500円までなどと金の管理までされることはまったくなかった。
それどころか、家族4人で月30万円でやれと奥方に命じて、給与証明書なんて見せることもなく、だから男がどこで誰といくらのんでいるのかなどまったくわからないようにしていられた。
さらにそれよりもっと以前の昔と言えば、給与振り込みなんて制度ができはじめたころで、給料もボーナスも、会社に勤めている本人が経理に赴き、ハンコを押して給与袋を手渡しでもらっていたのである。
「もし強盗が金を奪いたいなら、ガードの堅い銀行や郵便局など襲うよりも、うちの会社を襲えばいいのになあ」
と思っていたのは、だって給与袋が山と積まれたただの会議室で順番待ちをし、その最中ガードマンのひとりだって警戒に当たっていなかったのであるから(すべての会社がそうだとは言っていないが、べろべろに酔っ払って給与袋を丸ごと 落として返ってきたなんて話はよく近所の噂になることが多かった)。
この状況はさらにエスカレートしているのであるから、あなたの1日のお小遣いは500円もらえれば良い方で、部下におごってやることも出来ず、割り勘係長などと若い人間から小馬鹿にされ、今日の朝も眠い目をこすってし生ゴミ出し、自転車に子供乗せて保育園や幼稚園に送り届け、満員電車に揺られながら会社に行くのである。
そして来年か再来年、農林中金だかが、金融破綻で倒産なんてことを皮切りに、リーマンショックの100倍もの不況が襲いかかってくるだろうと複数の専門家が指摘し始めた。
もちろん世界的にも今や負債の額すらわからなくなっているドイツ銀行あたりがぶっ飛び、今や刷りすぎのドル紙幣が紙くずとなって、世界中が大不況でにっちもさっちも行かなくなるというこの時代に、我が家にいるのは味方ではなく、
「あんた、このマンションのローンどうすんのよ!」
「どうせ自宅待機なんだから、工事現場でもなんでも仕事見つけてきなさいよ!」
と、幼い我が子を人質にとってただ旦那を責め立てるだけ女房、嫁さんという最大の敵なのである。
(あと1年ぐらいで本当に大不況がやって来て、会社もどんどん潰れ、銀行から1000万円以内だったら保証されるから下ろそうとしてもみんな殺到しているからいつ自分の金が払ってもらえるのかわかったものではなく、明日から食料を買うことすらままならず、ただひたすら、「あんたの働きが悪いからいけないんだ」と上さんに一方的に責められる時代がやって来るだろう。
このとき、たま~に先輩や後輩で、
「一緒に頑張りましょう。何とかなるわよ」
と言ってくれるような嫁さんをもらった人間がいると聞くと、
(いいなぁ……)
とやっかむこともあるだろうが、それほど落ち込む悲痛はない。
だってそんな嫁さん、10万人にひとりとか、いや100万人にひとりもいないんだから。
宝くじ買った方が当たる確率が高いってなもんであろう。
男の地獄は、これからが本番だ。
世界的大不況とフェミニズムに挟まれた男の自殺者は、ますます増えるに違いない。
あ、そうか。
奥さんは勤め先がつぶれて仕事にも出られず、家族に顔向けが出来ずに悩んでいるだけの旦那なんかより、生命保険でももらった方がいいわけか……