✨どしゃ降りだっていいじゃないか。最後に晴れれば✨

小説家・小宅高洋(新ペンネーム)のひとりライフ。

■6/2(日) ②

■先ほど娘のメールで初めて知った。

元妻の母親が、もうこの夏を越せないだろうということを。

寝耳に水とはまさにこのことで、ガンが発見されて1年経って、ようやく真相を知った。

去年の春ごろ、どういう経緯かわからぬが、ガンが発見されたとは聞いていたが、その後入院したという話もなく、自宅から通院で病院に通っていると聞いていた。

 

腸に悪性のポリープでもできて、日帰りの切除手術を受けたか、あるいはも悪くても通院しながらの抗がん剤治療かと思っていた。

そうではなかった。まったくの逆だったのだろう。

つまり1年前の時点で、もはや外科手術はもちろん、点滴による抗がん剤も効かないであろうという手遅れの状態だったのだ。

 

そのような事実を、元妻の家とはもう他人同士だからしかたがないとして、娘も僕に告げることなく、現役時代に受験勉強をしていたのである。

あるいは僕も体が思わしくないことを考えて、詳しく言わないようにしていたか。

 

それがこの夏休みのことで連絡しあっていたら、つい先ほどのメールに、

「少しでもそばにいてあげたいから」

と書いてあったので、急いで電話をしたのである。

たまたま出てくれて(たいてい出ない)、いろいろ話を聞いてみたけれども、娘当人はもうとっくに覚悟していたのか、感情に流されたり動揺したりする気配はまったくなく、それどころか

「えっと、どこのガンだったかな。肺かな」

「いや、肺だったら僕の父親と同じだよ。病院の医師が、肺がんだけは胸をかきむしるほど苦しいですと言ったから、弟と相談して、毎日モルヒネの量を少しずつ増やしていって、眠るように死なせてあげてくださいとお願いしたんだよ。それを、しかも自宅で寝ていて1年間も息苦しくなく生きていられるなんて、肺がんじゃないだろう」

というと、

「ああ、胃ガン? いや肝臓ガンだったかも」

「胃ガンだったら全摘手術をしてでも入院治療をするはずだし、腸だってそうだよ。お父さんのお父さんも最初に結腸を切って病巣を切除したのに、それが肝臓、肺と急速に転移してしまって、医者も手の施しようがないということになったんだもの。抗がん剤も、年齢からして効かないだろうってことで、とうとうやらなかったし」

「わかった。明日とか聞いとくよ」

などと、脳天気なところばかり僕に似た娘は、なんだか淡々としゃべっていたけれども……もしかすると、もう他人である僕にはあまり詳しくしゃべるなと、元妻かあるいは母親の看病をしている元の義父が命じているのか……。

 

たぶん娘の性格からすると、母親のことは嫌いだし(あの軽い酒乱は誰でもちょっと驚くと思う)、かといっておばあちゃんのことは好きだし、一方ではお父さん(つまり僕)のろれつがまわらないようなしゃべり方もおかしいしと、おばあちゃんとお別れする意外のことは、あまり考えないようにしているのかも知れない。

脳天気だが、気丈なところ、負けん気の強いところもあるし……

 

だから春休みこっちに来たいと言ってたのかな。

電車賃さえ振り込んであげられない状態だったから(娘が高校を卒業してバラバラになっちゃうから、ディズニーに行くグループふたつの両方ともに参加したいと、その一つ分だけ振り込んだら、電車賃は消えてなくなった)、実現してやれなかったけど。

 

この前は十数年飼っていたインコも死んでしまったし、僕があの家を追い出されるようにして出た後、元妻の家にはとりわけ近年、悪いことが続いていたのかも知れない。

(56歳で死んだ僕の母親が生きていたら、我が家には守り神がいらっしゃるからと、憎まれ口を利いていただろう……

あの娘には九尾の狐がついているから、お前は結婚とかしたら必ず不幸になるとか、何十年かぶりの同窓会が開かれる前に当時の女学校時代の写真を見て、

「ああ、この子、生きてないかも」

と言ったと思ったら、その通り病気で死んでいたり……なんだか妙なところで勘のようなものが働く母親だった。

結局はそのデリケートな部分に押しつぶされるようにして、一時の僕と同様朝からアルコールを飲み続け、肝硬変となって、ある朝目を覚まさなかったのだが……。

 

しかし確かに、雑誌の取材で新興宗教の神さまだとか信者だとかの道場や家に行くと、彼ら彼女らはじっと僕を見て、

「貴方はだいじょうぶです」

と必ず口にしていたから(悪いものがついていると言った霊能力者とかは皆無だった)、あるいは本当に、背後になにかがいるのかも知れない。

今回の僕の病気もそうだが、いつも土壇場ぎりぎりになって助かっているのは、そのなにかのおかげなのかも……とちょっとスピリチュアル系な想像が頭をもたげてしまう。

よく小学生の低学年以下、幼稚園ぐらいの子とかに、じっと僕を見上げて、笑うでもなく怖がるでもなく、ぽかんと口を開けてびっくりした顔をしている様子を、僕の友人も何人か目撃していて、その中のある友人は、

「お前に驚いてたんじゃなくて、お前の後ろを見ていたような気がする」

と言っていたけれども……自分ではなんだかわからない。

ただ時おり、この部屋の電気が明滅したりすることがあって、

「ああ、なんか来て、すぐまた行っちゃったなあ。通りすがりかなあ。でも来た方角は海なんだけどなあ……」

などと、午睡の最中や半覚醒状態のときに、いろいろと気配を感じることはある)

 

話は脱線してしまったが、もし娘が寂しくてしょうがないのに、いろいろガマンしてひとりで電子レンジでご飯を食べたり、菓子パンで過ごしていたりしていたとしたら、あまりにもかわいそうだ。

というより、どうして言ってくれなかったのかと後悔しつつ、同時に叱りたくもなってしまう。

明日、千円でも送るかな……木曜日の大妙齢菩薩さまたちとの会食費は、予約をしてあることといい、どうしても使うわけにはいかないから、千円でも二千円でも……菓子パンじゃ、いくら若いからといって、体を壊してしまう。

 

夏休み、一ヶ月でもこっちに来て勉強したらどうだと提案し続けてきたのだが、もしおばあちゃんが亡くなるのが近いとしたら、それはそばにいてあげたいだろうし、

「その後お母さん(元妻)が落ち込むんじゃないかと心配だから、一ヶ月でも二ヶ月でも行こうかなと思ったこともあったけど、ぶっ通しで一ヶ月はやっぱりムリっぽい。

一、二週間遊びに来て、また千葉に戻って、また一、二週間来るのが関の山かも」

ということを、本当につい数時間前に初めてメールで様子を知ったのだった。

 

■明日は終日休みにしよう。

ビデオを返しに行って、また借りて帰ってくるかな……株主優待券の最後の1枚があるから、それで映画でも観てしまおうか。

なんだかくさくさするし。

 

これからお清めというか、シャワーを浴び、髪とヒゲをさっぱりして寝てしまおう。