■よく寝た……
ふと目が覚めて、枕元の時計をみると、4時を少しまわったところ。
なんだかとてもよく寝られたかも……
何も考えていないのに、自然と体が伸びを欲し、足は布団を蹴って、ゆっくりとした動きで寒い朝のストレッチをと動き始める。
いつものように物音ひとつしない部屋の中。
今日は珍しく、新聞配達のバイクの音も、国道を走り抜けるトラックの遠いエンジンの音も、波の音も聞こえてこない、靜寂な朝。
毎日欠かさずやっているから、もう体の髄までしみ込んだ朝の目覚めの運動が、まるで手足が自分の意志でも持っているかのように動き続ける。
天井から、カラスが歩き始める音もせず、くちばしで床のコンクリートをつつく音もしない。
雨だ……
頭上からわずかに響いた雨粒の音。
去年の秋に買った2枚合わせの毛布を脇にはさんで、立ち上がる。
信じられないほど暖かかったこの毛布のおかげで、この冬を乗り切ることができた。
肌を切るような冷たい水が顔に触れた途端、はっきりと目が覚めた。
こんな凍るような朝に洗面をしていると、今は亡き恩師が、
「知ってる? 中国ではね。お湯で顔を洗うんだよ。戦争中ね、僕は中国で戦ってたでしょ? 夜の歩哨に立っていると、どこからかお湯の匂いが漂って来てね。それで朝が来たんだってわかるんだよ」
なぜこんな話を覚えているのかわからない。
先生は続ける。
「蒋介石がね、まだ青年将校だったころ、中国でも明治維新のような革命を起こすのだと、日本に留学に来たでしょ。
日本人がおとなも子どもも関係無く、真冬に薄く氷の張ったような盥の上に身をかがめてさ、平気でその水で顔を洗うのを見て、
『これでなぜ、少数の日本の軍隊が、圧倒的多数であったはずの清の軍隊を蹴散らし、さらには露西亜の軍隊を打ち破ったかがよくわかった。我々はまず、この古くからの日本の週間を学ぶことから始めるべきである』
とため息をついたそうだよ」
と言っていたのを思い出すことがある。
一杯の白湯を持って、机に向かう。
少し風が出て来たようだ。
雨が窓を叩く音が聞こえる。
今日は雪になるかも知れない。
その時僕は立ち上がったパソコンの画面を見て驚いた。
えっ!?
今日は2015年の1月30日!?
今は2015年だって???
冗談じゃ……………
どうやら僕は、一年という長きを、ずっと寝ながらすごしていたようである。